2020年10月30日
ポイント
●感染症モデルに基づく予測の不確実性を解明。
●感染症の流行初期の統計的鋭敏性と動力学的鋭敏性を発見。
●感染症モデルによる長期予測は注意深くなされるべきであると提言。
概要
北海道大学電子科学研究所(所長 中垣俊之教授)附属社会創造数学研究センターの佐藤 讓准教授は,フランス?CNRSのDavide Faranda博士,メキシコ?UNAMのIsaac Pérez Castillo博士,デンマーク?Copenhagen UniversityのOliver Hulme博士,フランス?Sorbonne UniversitéのAglaé Jezequel博士,イギリス?Imperial College LondonのJeroen Lamb教授,イギリス?London School of EconomicsのErica L.Thompson博士の5カ国7研究者からなる,London Mathematical Laboratoryの国際共同研究チームとともに,感染症流行を記述するSEIRモデルの観測データに対する予測結果の鋭敏性を発見し,ランダム力学系理論によりそのメカニズムを明らかにしました。さらに,観測データのわずかな誤差が,予測感染者数を百倍近く増幅させることを解明しました。本研究成果により,常にデータ更新がなされ,直近の観測データによりパラメーターが決定される感染症モデルに基づく予測の不確実性が明らかになりました。このモデリング手法と予測の評価法は,実験的に観察されている様々な社会現象を分析する有力な方法となることが期待されます。
本研究成果は2020年5月19日(火)オンライン公開のCHAOS誌の巻頭特別論文として掲載され,American Institute of Physicsなどでプレスリリースされました。
なお,本研究はLondon Mathematical Laboratory External Fellowship,日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)「ランダム力学系理論に基づく確率カオスの現象論とその応用」などの支援を受けて実施されました。
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(左)観測終了日を変化させたときのフランスにおける感染者数予測値。
(右)最後のデータ値が20%変動したときのイギリスにおける感染者数予測値のアンサンブル。