2022年3月10日
北海道大学
北海道立総合研究機構
北海道ひがし農業共済組合
北海道中央農業共済組合
みなみ北海道農業共済組合
ポイント
●牛伝染性リンパ腫の発症が,分娩前後に多発することを確認。
●エストロゲンがプロスタグランジンE2の産生を誘導し,細胞性免疫を抑制することを解明。
●周産期に多発する疾病に対する新規制御法の開発に期待。
概要
北海道大学大学院獣医学研究院の今内 覚准教授ら,北海道立総合研究機構農業研究本部畜産試験場の小原潤子研究員,北海道ひがし農業共済組合,北海道中央農業共済組合,みなみ北海道農業共済組合の研究グループは,牛伝染性リンパ腫(旧名:牛白血病)の発症と分娩との関係について調査研究を行い,牛において周産期に疾病が多発するメカニズムの一端を明らかにしました。
妊娠牛は流産を防止するために自身の免疫を抑制することが知られています。我が身を危険に晒してまで子孫を守る尊い生体反応ですが,免疫が抑制された妊娠牛は感染症に罹患するリスクが上昇し,周産期は疾病が多発します。しかし,妊娠牛の詳細な免疫応答機構や周産期に疾病が多発するメカニズムについては明らかになっていませんでした。
本研究では,日本で発生が急増中の牛伝染性リンパ腫について,分娩が及ぼす影響を解析しました。その結果,分娩前に血中のプロスタグランジンE2(PGE2)濃度が上昇する一方で,免疫応答は極度に低下していました。さらに,妊娠牛のPGE2の誘導にはエストロゲンの一種であるエストラジオールが重要であることを明らかにし,エストラジオールがPGE2シグナルを介して細胞性免疫応答を抑制することを解明しました。これらの現象は,牛へのエストラジオール投与試験によって再現され,生体内でも同様の抑制機序が働くことを確認しました。本研究によって,牛の周産期では,胎盤などから分泌されるエストラジオールがPGE2を介して細胞性免疫を抑制し,牛伝染性リンパ腫を含めた疾病の発生リスクの上昇に関与することが示されました。今回の結果は,北海道の各機関が一丸となって調査した成果です。今後も酪農大国?北海道として本病の対策に取り組んでいく予定です。
牛の周産期に疾病が多発するメカニズムの一端が明らかになったことから,本研究による成果を基盤として,新たな治療法や予防法の開発が期待されます。また,ヒトにおいても妊婦さんは疾病リスクが高いことが報告されています。今回得られた知見は,獣医学領域のみならず,ヒトの研究にも応用できる可能性があります。本研究成果を広く活用し,獣医療ならびにヒト医療の向上を目指した応用研究を展開していく予定です。
なお,本研究成果は,2022年3月9日(水)公開のPLOS ONE誌に掲載されました。
論文名:Estradiol-induced immune suppression via prostaglandin E2 during parturition in bovine leukemia virus-infected cattle (牛伝染性リンパ腫ウイルス感染牛の分娩時にエストラジオールにより誘導されるプロスタグランジンE2を介した免疫抑制)
URL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263660
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妊娠牛における免疫抑制機序
牛の妊娠後期に上昇するエストロゲン(エストラジオール)が,プロスタグランジンE2を介して細胞性免疫を抑制し,周産期の疾病発生リスクの上昇に関与することを解明。